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2日目(1999年11月20日土曜日)

朝だ。
午前9時。
普段なら決して起きることのできない時間に目が醒めるのが、旅の不思議の1つだ。
徹夜後の爆睡は気持ちがいい。
これがフェリーの上でなければもっと気持ちが良かっただろう。
とりあえず、朝飯を食わねばと給湯室へ向かった。
今日の朝食は「やき○ば弁当」だ。
お湯をいれ、3分待つ。
この時間がなんともいえない。
そして、湯切り。
残念ながらターボではない。
しっかりと切った後、部屋に戻る。
ソースをいれて、よく混ぜる。
お腹がなる。
ものもいわずに貪る。

と、テレビがついている。
今日は土曜日。
フェリーといえばBS。
どこかで聞いたメロディー。
「あすか」だ。
画面の中では、本郷猛が飲んだくれている。
どういうことだ?
支部会準備でほとんどテレビをみていなかったので、状況がつかめなかった。
先週の予告では、彼は自分の過去を全部話すといきまいていた。
「俺は普通の人間じゃないんです!」
きっとそういってくれるに違いないと思っていたのだが、この暴れぶりは何だ?
まさか洗脳?
遂に脳手術まで受けてしまったのか!?
さまざまな思いが渦巻く中、画面に見入った。

しっかり「あすか」を堪能し、お腹もふくれたので散歩に出た。
今は秋田沖らしい。
波はほとんどない。
直江津での一時下船の手続きをする。
午後5時に直江津に到着らしい。海も穏やかなので早めに着きそうだ。
一旦降りると4時間くらい船に戻れないらしいが、当時直江津をよく知らなかったので、降りることにした。
この、下調べが全くないというのが、今回の旅の特徴でもあり敗因でもあったのだが。

「まもなく直江津に到着致します。」
船内アナウンスに降りる準備をしていたところ、突然同室の男性が声を掛けてきた。
「福岡まで行くんですか?」
とりあえず返事をしたら、彼はコンビニの袋にいっぱいに入った「カップラーメン」を差し出した。
九州まで行くつもりだったが気持ち悪くて、もう1日は耐えられないので、引き取ってくれということだった。
食い物には意地汚いので、しっかりともらった。
しかし、この天気でだめだとは、正直驚いた。彼は一生船には乗ることはないだろう。
そんなことで下船が遅くなり、待合所までのシャトルバスに乗り遅れた。
といっても、100メートルくらいしか歩かないので大した問題ではなかった。

暗い。
またもや暗い。
フェリー乗り場は暗くないと行けないという決まりでもあるのだろうか?
タクシーもいない。無論タクシーなど乗る金もないのだが。
直江津の駅前までのバスもない。 というか、人家の気配がない。
かなりやばいかもしれない、とその時初めて思った。
しかし船に戻ることもできないので、しかたなくトラックが去って行く方に足を進めた。
道はひろい、でも暗い。
フェリーの明かりがまぶしいくらいだ。
国道まで出るのに数分かかっただろうか?
しかし、この国道も暗いのだ。
遠くに電話ボックスの明かりがぽつんと見えた。
「情報が必要だ。」
たどり着いた電話ボックスの電話帳は、地図のところだけ見事に破られていた。
歩くしかなかった。

途中、某S友金属の工場があった。
かなりの年代物であった。
ふと、来春就職する友人を思い出した。たしか、彼はS友金属だった。
ここに配置されたら、、、。彼の愚痴が聞こえてきそうな気がした。

やっと、コンビニが一つ見えた。
しかし、ここまできてコンビニではあまりに寂しい。
幸い、辺りは街らしくなってきている。
もうちょっといけば、いいとこがあるだろう。
人間、欲が出てくるとろくなことがない。
そんなことを思い知るのは、まだ先のことだった。

「セブンイレブンまで0.7km」
街の証である。
まともな食べ物を求めて、歩いた。
何件か、いかにも大衆食堂という店があったが通り過ぎた。
旅に出てまでという、妙な見栄があったようだ。
今思えば、この辺から今回の旅はおかしくなりはじめたようだ。
セブンイレブンが現れた。
とりあえずカメラのフィルムを買う。
これで、旅の記録にも本腰が入るというものだ。

セブンイレブンでしばらく立ち読みした後、またさまよい始めた。
セブンイレブンの筋向かいは「ドサンコラーメン」だったが、さすがに入る気はしなかった。
遠くに、やけにまぶしい看板が見える。
これは期待できそうだ。
いつのまにか、ジョギングペースになる足。
空腹も限界に近付いたらしい。
走った。
運動不足の体に鞭打ち走った。

そこに現れたのは、中華料理店だった。
その名も、「シャーレン」
口の中はいつのまにか唾液でいっぱいになっていた。
自動ドアを抜けて、中へ入った。
店員に案内される前に、勝手にカウンターに座る。
あわてて、店員が水とメニューを持ってきた。
厨房がカウンター越しに見えた。
なかなか大きい。
店の規模にしては、人が多いように見えた。 10人くらいは、いたような気がする。
ホールは二人しかいないのに。
「チンジャオロース丼」を頼んだ。
客は家族連れが多い。土曜の夕飯時もあって結構繁盛しているようだった。

ご飯がくるまでの間に、カメラにフィルムをセットした。
APSなのでラクチンポンだ。
いろいろいじってるうちに、ご飯がきた。
結構ボリュームがある。
何もいわずにスプーンでかきこみ始めた。

揺れる。
目の前の皿が近付いたり遠ざかったりする。
「陸酔い」だ。
腹にものが入って感覚が戻ってきたのか、椅子に落ち着いたせいなのか。
一瞬、意識が遠くなりかけたが、なんとか持ちこたえる。
せっかくうまいものにありつけたのに、無駄にしてなるものか。
しょうがないので、三半規管が落ち着くまで、店を観察することにした。
バイトらしい男女が一人ずつホールを担当している。
男の方は友達が食べにきているらしく、おしゃべり中だ。
ラーメンがあがってるのに気づく気配もない。
こいつは使えん。
案の定、その後水をこぼして床を掃除していた。
女の子の方は真面目だ。
厨房は大人数だがずいぶん和気あいあいとやっているようだ。
客も次々入ってきていた。
まあまあだな。
あからさまにチェックをする眼差しが気になったのか、おばちゃんが水をつぎにきた。
全く嫌な客である。

そんなこんなで、1時間ほど居座ったあと店を出た。
「せっかくだから、写真でもとろう。」
この旅先るんるん気分が、まさかあんなことは引き起こそうとは。
この時は、知る由もなかった。

(続きは修論完成後)


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