日本付近で急激に発達する低気圧の発達環境と構造

吉田 聡*・遊馬 芳雄(北大院・理)

(日本気象学会北海道支部平成13年度第2回支部研究発表会 No.9:16.November.2001)


INDEX
1.はじめに
2.データと解析方法
3.解析結果
4.まとめ

  1. はじめに
  2. これまで、1994年10月から1995年3月まで1シーズンに日本付近で発生発達 した爆弾低気圧について、その発生環境と発達要因に関する解析を報告した(1999年 第2回支部発表会、2000年第1回支部発表会)。 その結果、爆弾低気圧の発達には下層の傾圧域と上層のポテンシャル渦度の移流 が重要で、発達位置は大規模場の環境に大きく依存し、発達位置によって発達に寄 与する物理過程が異なることを示した。 本研究では解析期間を4シーズンに延長し、日本付近での爆弾低気圧の発達環境と構 造について解析を行った。

  3. データおよび解析方法
  4. 解析には気象庁提供の全球客観解析データ(GANAL)を使用した。解析期間 は1994年から1995年と1996年から1999年の4冬季間(10月から3月)である。解析領 域は東経100度から180度、北緯20度から65度である。 低気圧は12時間以上持続し、少なくとも一度中心気圧の低下があっ たものとして定義し、さらに爆弾低気圧はその中でSanders and Gyakum(1980)の 定義によって抽出した。また発生位置と発達位置から日本海およびオホーツク海 で発達した低気圧をOkhotsk-Japan Sea(OJ)タイプ、太平洋上で発生発達した低 気圧をPacific Ocean-Ocean(PO-O)タイプ、大陸上で発生し太平洋上で発達した ものをPacific Ocean-Land(PO-L)タイプ、大陸上で発生発達したものを Land-Land(L-L)タイプ、太平洋上で発生しオホーツク海上で発達したものを Okhotsk-Ocean(O-O)タイプとして分類した。

  5. 解析結果
  6. 解析期間中、爆弾低気圧は184ケース発生し、OJタイプが33ケース、PO-Oタイプ が91ケース、PO-Lタイプが44ケースあった。L-LタイプとO-Oタイプはそれぞれ 13ケースと3ケースであった。 そこで前回と同様発生頻度の多いOJ、PO-O、PO-Lの3つのタイプについての解析 結果を述べる。 まず
    図1に各タイプの低気圧の月別発生頻度を示す。 全体としては1月に最も発生数が多い。PO-Oタイプも同様に1月にピークを持つ。 OJタイプは11月に最も多く発生し、次いで3月に多い。一方PO-Lタイプは12月と2 月に発生数が多い。 このことから爆弾低気圧の発生位置と発生数に季節依存性があることが示唆され た。 次に、最大発達した時刻におけるコンポジット解析を行った結果の400hPa面と 850hPa面の概略図を図2に示す。 OJタイプでは上層のトラフが中国大陸上を南北に延び、 PO-Lタイプのトラフはオホーツク海上から日本上空に分布している。PO-Oタイプ ではトラフは北西太平洋に大きく張りだしている。 一方、下層の総観場では、OJタイプはオホーツク海に、PO-Oタイプ とPO-Lタイプはベーリング海上に低気圧が存在し、PO-OタイプはPO-Lタイプに比 べて強い。 また、この低気圧に伴う傾圧域が各タイプの発達位置に形成されていた。 これらの特徴的な環境場は大陸の寒気の張り出しの季節変動と一致しており、各 タイプの発生頻度の季節変化が環境場の季節変動の影響であることが示唆される。 一方、爆弾低気圧の構造を調べるため、各タイプで発達率が1.5bergeron以下の 低気圧について中心を一致させた最大発達時のコンポジットを作成し解析を行った。 まず850hPa面の温位および相当温位分布を図3に示す。 OJタイプは温位でも相当温位でも、低気圧の西側に寒冷前線に対応する大きな水 平勾配があり、傾圧帯が南北に伸びている。しかしPO-LおよびPO-Oタイ プでは温位勾配は小さいが相当温位勾配は大きい温暖前線が東西に伸びた構造を している。 これからOJタイプでは傾圧性が大きく、PO-LおよびPO-Oタイプでは非断熱の 効果が大きいことが示唆される。また図4の低気圧中心を南北に切ったジオポテ ンシャル高度の12時間変化の鉛直断面図からOJタイプが最も鉛直スケールが小さ く、次いでPO-Lタイプで、PO-Oタイプが最も鉛直スケールが大きくなっているこ ともわかった。

  7. まとめ
  8. 日本付近で発達する爆弾低気圧について4冬季間の客観解析データを用いて統計 的な解析を行った。 その結果、爆弾低気圧の発生位置、発達位置は季節によって異なり、それは大規 模場の季節変動の影響によることを示した。 また爆弾低気圧の構造の解析からは、OJタイプは寒冷前線が発達し傾圧性が大 きいが、PO-L、PO-Oタイプはともに温暖前線が顕著で非断熱過程も重要であるこ とがわかった。 更にPO-Oタイプが最も鉛直スケールが大きく、次いでPO-Lタイプ、最も小さいも のはOJタイプであったこともわかった。 以上のことから、環境場は爆弾低気圧の移動経路に影響するだけでなく、低気圧内の 前線構造にも影響し、低気圧内で非断熱過程が発生する領域を変化させていた。 その結果、寒冷前線的なOJタイプよりも温暖前線的なPO-L、PO-Oタイプのほうが 非断熱過程の中心気圧低下に対する寄与が大きく、より急激な発達をしていたことが わかった。
図1 爆弾低気圧の月別発生頻度.全爆弾低気圧(左上),OJタイプ(左 下),PO-Oタイプ(右上),PO-Lタイプ(右下).
図2 各タイプの発達環境の概略図.上からOJタイプ,PO-Lタイプ, PO-Oタイプ.
図3 最大発達時の850hPa面の温位(左列)と相当温位(右列)分布(コ ンター)とその水平勾配(陰影)のコンポジット(中心は低気圧中心).上からOJタ イプ,PO-Lタイプ,PO-Oタイプ.
図4 ジオポテンシャルの最大発達時から前12時間変化のコンポジッ ト(陰影)の低気圧中心の南北断面図.コンターは信頼区間90%. 上からOJタイプ,PO-Lタイプ,PO-Oタイプ.