日本付近で急激に発達する低気圧の発達要因

吉田 聡*・遊馬 芳雄(北大院・理)

(日本気象学会北海道支部平成12年度第1回支部研究発表会 No.6:9.June.2000)


INDEX
1.はじめに
2.データと解析方法
3.解析結果
4.まとめ

  1. はじめに
  2. 日本付近で急激に発達する爆弾低気圧は、発生・発達位置、移動経路から オホーツク海及び日本海で発達する「OKHOTSK-JAPAN SEA」(OJ)タイプ、 太平洋上で発生、発達する「PACIFIC OCEAN(OCEAN)」(POO)タイプ、大陸 上で発生し太平洋上で発達する「PACIFIC OCEAN(LAND)」(POL)タイプの3 タイプに分類でき、発生時期や発生環境に違いがあることを前回(1999年 第2回研究発表会)報告した。 今回はそれぞれのタイプの典型例について、Zwack and Okossi(1986)の発達 方程式(以下Z-O86)を使って、発達に寄与する要因について解析した。

  3. データと解析方法
  4. データとして気象庁全球客観解析データ(GANAL)を使用した。 任意の地点における12時間の地表気圧変化ΔPは、Z-O86による地衡風 相対渦度の時間変化と静水圧平衡から以下のように表される。

    ΔP = 〈VADV〉+〈TADV〉+〈LATH〉+〈ADIA〉+〈RESID〉

    ここで、VADVは渦度移流項、TADVは温度移流項、LATHは潜熱放出項、 ADIAは断熱冷却項、RESIDは残差で〈 〉は鉛直積算を表す。 この関係を用いて、12時間毎の低気圧中心での気圧変化に対する各項の 寄与を見積もった。さらに各項の鉛直分布についても解析を行なった。

  5. 解析結果
  6. 解析した3つの事例の発生、最大発達日時と最大発達率を表1に、その間の移動経路を図 1に示す。 まずOJタイプの解析結果を図2に示す。 最大発達の12時間前には渦度移流項が気圧変化の3分の2を占めてい たが、最大発達時には温度移流項が増加し渦度移流と同等の寄与をして いた。 最大発達時の各項の鉛直分布(図3)を見ると、渦度 移流は上層から中層にピークがあったが、温度移流は下層で大きくなっ ていた。 このことから、OJタイプははじめは上層から中層にかけての渦度によっ て発達していたが、最大発達時には下層の傾圧性が強まり急激に発達し たと考えられる。 次にPOOタイプの気圧変化を図4に示す。 渦度移流項と温度移流項がともに最大発達時に増加して、急激な発達を 引き起こしていた。 その時の鉛直分布(図5)では、渦度移流は上層で大 きく、温度移流は上層と下層の2箇所にピークがあった。 この結果から、POOタイプは上層からの渦度と温度の移流、さらに下層での 傾圧性の強化が発達の要因として寄与していたと考えられる。 一方、図6に示したPOLタイプの気圧変化は、渦度 移流項が12時間前も最大発達時もその発達を支配していた。 鉛直分布(図7)では、渦度移流は上層にピークを持っ ており、温度移流、潜熱放出はほとんど寄与していなかった。 これから、POLタイプは上層での渦度の移流のみによって急激な発達が起 こったと考えられる。

  7. まとめ
  8. 日本付近で発達する爆弾低気圧を移動経路と発達位置で3つのタイプに分 類し、その典型的な事例についてZ-O86を用いて発達の要因を解析した。 その結果、3つのタイプによって最大発達時の発達要因が異なっており、 OJタイプは下層の傾圧性、POLタイプは上層の渦度移流、POOタイプは上層の渦度 移流及び温度移流と下層の傾圧性が急激に発達した要因となったいた。

    参考文献

    Zwack and Okossi(1986).Mon.Wea.Rev.,114,655-666.
Type Formation date Maximum deepning date Bergeron
OJ 12UTC 01 Nov 94 00UTC 4 Nov 94 1.6
POO 00UTC 30 Dec 94 00UTC 1 Jan 95 2.7
POL 12UTC 24 Apr 94 00UTC 3 May 94 1.2
表1 解析した低気圧の発生・最大発達日時,最大発達率.
図1 OJタイプ(実線)、POOタイプ(破線)、POLタイプ(点線)の移動経 路と最大発達位置(●).×は12時間毎の位置.
図2 OJタイプの最大発達36時間前から最大発達時まで12時間毎の低 気圧中心におけるΔPとZ-O86の各項による気圧変化.
図3 OJタイプの最大発達時における渦度移流項(VADV),温度移流 項(TADV),潜熱放出項(LATH)の鉛直分布.
図4 POOタイプの気圧変化.図2と同様.
図5 POOタイプの鉛直分布.図3と同様.
図6 POLタイプの気圧変化.図2と同様.
図7 POLタイプの鉛直分布.図3と同様.