日本付近で発達する爆弾低気圧の構造と発達要因

吉田 聡*・遊馬 芳雄(北大院・理)

(日本気象学会2002年春季大会P184:22.May.2002)


INDEX
1.はじめに
2.データおよび解析方法
3.解析結果
4.まとめ

  1. はじめに
  2. これまで、日本付近で発達する爆弾低気圧を発生発達位置によって3タ イプに分類し解析を行ってきた。その結果、3タイプの発達環境は図1 のように摸式化され、環境場の季節変動に伴って各タイプの発生頻 度が変化することがわかった。 今回はZwack and Okossi(1986)の発達方程式(以下、Z-O方程式)による発達要 因の寄与率を基に低気圧の構造を解析した。

  3. データおよび解析方法
  4. データとして1996年から1999年の3冬季間気象庁全球客観解析データ (GANAL)を使用した。 Z-O方程式から950hPaでの地衡風渦度傾向(に対する渦度移流項(VADV)、温度移流項(TADV)、潜熱放出項 (LATH)、断熱冷却項(ADIA)の寄与を見積もり、強さを揃えるため最大発達 率が1.3bergeron以上1.8bergeron未満の低気圧に関してタイプ毎に低気圧 の中心を一致させたコンポジット解析を行った。

  5. 解析結果
  6. 表1に最大発達時でコンポジット解析した各項の寄与を示す。 OJタイプではLATHによる寄与はあまりなく、VADVとTADV によって発達している。PO-LタイプとPO-OタイプはLATHとTADVが大きくて、 PO-Oタイプでは2つの寄与が全体の渦度変化の7割程度にもなっている。 また、VADVの値は3つのタイプでほぼ同じであるのも興味深い。さらに、 各項の鉛直分布を調べたところ、VADVは上層の寄与が大きく、他の項は下 層での寄与が大きいことがわかった。 この違いと低気圧構造の関係を調べるため、図2に850hPaで のコンポジット合成図を示す。 温位とTADV(図2左)を 見ると、OJタイプでは環境場を反映して、低気圧の西側で南北に伸びる寒 冷前線が顕著で、暖気移流による渦度増加は低気圧の東側に広く分布している。 一方 PO-L、PO-Oタイプは前線が中心付近で東西に伸び、渦度増加が 中心のすぐ北東の温暖前線域で最大になっている。 また、比湿と上昇流およびLATH(図2右)は OJタイプで低気圧中心付近の上昇流は大きいが温暖前線域に対応する上昇 流は弱い。さらに水蒸気量も少ないためにLATHの寄与が小さい。 一方PO-L、PO-Oタイプは中心および温暖前線域での上昇流が強く、PO-Oタイプ では水蒸気量が多いため、LATHによる渦度増加の寄与が大きいことがわかっ た。

  7. まとめ
  8. 日本付近で発達する爆弾低気圧の発達要因と構造の関係を解析した。 その結果、下層の前線構造は環境場の状況を反映していた。また、発達要 因の寄与もタイプによって変わることがわかった。
図1 各タイプの最大発達時の発達環境の概念図.
表1 各タイプの最大発達時におけるの極大位 置での各項の寄与.単位は
図2 上からOJ,PO-L,PO-Oの最大発達時の850hPaでのコンポジット. 左:温位(K, 太線コンター)、温位勾配(K/100km, 陰影)、 TADV($10^{-9}s^{-2}$, 細線コンター).右:上昇 流($-\mu bs^{-1}$, 太線コンター),比湿(g/kg, 陰影), LATH($10^{-9}s^{-2}$, 細線コンター).●は $\partial \zeta_{gl}/\partial t$ の極大位置.