日本付近で急激に発達する低気圧の統計的解析

吉田 聡*・遊馬 芳雄(北大院・理)

(日本気象学会1999年春季大会P375 : 28.April.1999)


INDEX
1.はじめに
2.使用データ、解析領域
3.爆弾低気圧の定義
4.解析結果
5.まとめ

  1. はじめに
  2. 急激に発達する低気圧、いわゆる爆弾低気圧は、北アメリカ東岸と日本付近の海洋上で多く発生発達することが知られている。
    今回は、気象庁印刷天気図と気象庁全球客観解析データ(GANAL)を用いて、1994年4月から1995年5月3月までに日本付近で発生した爆弾低気圧に関する統計的解析を行った。

  3. 使用データ、解析領域
  4. 使用データ ●気象庁印刷天気図
    ●気象庁全球客観解析データ(GANAL)
    ・水平グリッド:1.875°× 1.875°
    ・時間間隔:12時間(00z,12z)
    解析期間 1994年4月1日〜1995年3月31日
    解析領域 北緯20°〜65°,東経100°〜180°

  5. 爆弾低気圧の定義
    1. 気象庁印刷地上天気図より、 12時間で12hPa以上中心気圧が低下した低気圧を抽出。

    2. GANALデータの地表気圧を用いて、

      ΔP=[ {p(t-12)-p(t)} / 12]・sin60°/ sin[ {φ(t-12)+φ(t)} / 2]

      を求める。

    3. ΔP >= 1

      を満たすものを爆弾低気圧とする。

  6. 解析結果
  7. a.発達位置と移動経路
    • 解析期間中、解析領域内で26ケースの爆弾低気圧が発生、 発達した。
      すべてのケースが海洋上で最大発達し、その上空にはポテン シャル渦度の高い領域が接近している。
    • 発達域がオホーツク海上および日本海上と、 太平洋上との2地域に分かれている。

    それぞれを「OKHOTSK-JAPAN SEA」タイプ(10ケース、以下OJタイプ)と「PACIFIC OCEAN」タイプ(16ケース、以下POタイプ)とに分類し、それぞれの違いについて、解析する。

    b.月別発生頻度

    全体 12月を中心とした冬季に多く発生し、夏季には1つも発生していない。
    OJタイプ 秋から初冬にかけてと春に多く発生している。
    POタイプ 真冬に多く発生している。

    c.最大発達率頻度

    全体 1.1bergeronをピークに正規分布的に減少。
    OJタイプ 1.2〜1.6BERGERONの間に集中している。
    POタイプ 発達率の大きさに散らばりがあり、大きな発達率を持つ事例もある。

    d.コンポジット解析

    OJタイプとPOタイプが発生発達した場の特徴を調べるため、それぞれのケースの最大発達時を中心とした6日平均値のコンポジット解析を、400hPa面と地表について行なう。

    ◎400hPa面
    OJタイプ POタイプ
    相当温位
    傾圧域が日本上空にあり、勾配が比較的小さい。 傾圧域の中心が太平洋上に存在し、 相当温位300K以上の寒気がオホーツク海上に張り出している。
    ジオポテンシャル高度
    日本上空で勾配が大きくトラフが大陸からオホーツク海に伸びて いる。 勾配の極大が日本の東から太平洋に存在。
    比湿
    POタイプの方がOJタイプに比べて 太平洋上の勾配が急になっている。
    ポテンシャル渦度
    OJタイプに比べてPOタイプの方が大きく南に張り出している。

    ◎地表
    OJタイプ POタイプ
    温位
    280Kの等温位線がOJタイプの方がPOタイプに比べて 北にあるが、傾圧域の分布、勾配の強さに大きな差はない。
    相当温位
    オホーツク海北岸に強い傾圧域がある。 太平洋上の傾圧域が東に伸び、日本の南にもう一つの傾圧域がある。
    比湿
    日本海に強い水蒸気の移流がある。 太平洋上の勾配が大きい。
    気圧
    低圧域がオホーツク海に存在している。 アリューシャンの低圧域と大陸上の高圧域がはっきりしている。

    e.地表の低気圧と上層の渦の関係

    地表の低気圧と上層の渦の関係を調べるため、地表の低気圧からの、 400hPa面の渦の中心の相対位置を解析する。
    OJタイプ POタイプ
    最大発達時の渦の位置
    距離1000〜1500km、南西または北西方向に位置。 距離500km前後、西〜北西に集中。
    渦の接近方向
    西からのものが多い。 ほとんどが北西方向から接近。

    f.発達率と上層の渦の関係

    発達率と上層の渦の関係を知るため、「低気圧と上層の渦との相対距離」、 「上層の渦の相対渦度」、「渦位」と、「発達率」の相関を示す。
    OJタイプ
    「相対距離」と「発達率」、「相対距離」と「渦位」の間に、正の相関がある。
    「相対距離」と「相対渦度」には相関がない。
    POタイプ
    「相対渦度」と「発達率」との間に正の相関がある。
    「相対距離」と「渦位」には相関がない。
    表1 相関係数
    (右上:OJ
    左下:PO)
    相対距離相対渦度渦位発達率
    相対距離 -0.085 0.493 0.568
    相対渦度-0.184 0.433 0.085
    渦位 -0.005 0.559 0.454
    発達率 -0.206 0.683 0.439

  8. まとめ
  9. 気象庁印刷天気図と気象庁全球客観解析データ(GANAL)を用いて、1994年4月から 1995年3月の1年間に日本付近で発生、発達した爆弾低気圧について統 計的な解析を行った。


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